賃貸管理コラム
大家は所有する不動産を貸し出し、家賃収入を得る人を指します。
大家になるための具体的な方法を、大家さんになりたい人にわかりやすく解説します。
「大家さんになりたい」と思ったとき、まず気になるのは「そもそも大家ってどんな仕事?」といった基本的な疑問ではないでしょうか。
ここでは、大家の仕事内容や収入と支出の内訳、サラリーマン大家のメリット、大家になるための具体的な手順まで、わかりやすく解説します。
大家とは、自分が所有する不動産を人に貸し出し、家賃収入を得る不動産オーナーのことを指します。
しかし、単に物件を持っているだけではなく、賃貸経営に関わるさまざまな業務に責任を持つ立場でもあります。
大家の仕事は、大きく分けて「入居者に関する仕事」と「建物に関する仕事」に分類されます。
入居者に関する仕事は、以下のような内容です。
また、建物に関する仕事は、次のような内容です。
このように、大家の仕事は想像以上に多岐にわたります。
特に初めて大家業にチャレンジする人や副業として取り組みたい人にとっては、すべての仕事を自力で行うのは負担が大きいかもしれません。
実際に、約8割の大家さんが不動産管理会社を利用しています。(※)
大家の仕事が何となく見えてきたら、「実際にどのくらいの収入があるの?」「どんな支出があるの?」といったお金の話が気になってくるのではないでしょうか。
ここでは、アパートを経営する上での収入と支出の内訳について解説します。
手元に残る利益をしっかり見積もるためにも、事前に把握しておきましょう。
大家の主な収入は家賃収入ですが、その他にも次のような収入があります。
なお、「敷金」については、家賃の滞納や入居者の不注意による物件の損傷があった場合の修理費用にあてるために預かっているお金であることから、収入には含みません。
項目 | 内容・目安 |
家賃収入 | 毎月のメイン収入 |
共益費 | 共用部分の維持管理費(家賃の5〜10%程度が目安) |
駐車場代 | 駐車場付き物件なら毎月のプラス収入に(金額は近隣相場による) |
礼金 | 入居時に受け取る謝礼金(家賃1〜2カ月分が目安) |
更新料 | 契約更新時に受け取る更新料(家賃の0.5〜1カ月分が目安) |
自動販売機の売上など | 敷地を活用した副収入(月数千円〜1万円前後が目安) |
次に、支出を見てみましょう。
大家の支出には、定期的にかかる費用と不定期で発生する費用があります。
定期的にかかる費用は、以下の通りです。
項目 | 内容・目安 |
ローン返済 | 毎月の借入金返済(利息分は経費計上が可能) |
管理委託費 | 管理会社に支払う費用(家賃の5%が目安)(※1) |
保険料 | 火災保険・地震保険・施設賠償責任保険など |
水道光熱費 | 共用部分の照明・水道などの費用 |
固定資産税 | 年1回または4期に分けて支払い |
また、不定期で発生する費用は以下の通りです。
項目 | 内容・目安 |
建物修繕費用 | 原状回復・設備修理・リフォーム等(RC造なら30年間で1戸あたり約225万円が目安)(※2) |
仲介手数料 | 入居決定時に不動産会社へ支払う報酬(原則は1カ月分の家賃×1.1倍を貸主と借主で折半)(※3) |
広告料(AD) | 仲介手数料とは別に、不動産仲介会社に入居者募集を依頼した場合の成功報酬(家賃の1〜2カ月分が目安) |
立ち退き料 | アパートの売却・建て替えなどに伴い、入居者に退去を依頼するときの補償金 |
参考
(※1)(公財)日本賃貸住宅管理協会|第28回賃貸住宅市場景況感調査
(※2)国土交通省|民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック
(※3)国土交通省|<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ
大家としての仕事やお金の流れをつかんだところで、次に気になるのは「実際に自分にとってどんなメリットがあるのか」という点ではないでしょうか。
会社員が大家になることで得られる主なメリットは、次の3つです。
順番に解説します。
最大のメリットは、毎月の家賃収入という「安定した副収入」が得られることです。
例えば月20万円の収入があれば、年間で240万円の収入になります。
生活にゆとりが生まれるほか、収入をNISAなどの資産運用に回したり2棟目・3棟目のアパート購入を検討したりすることで、会社員をリタイアする時期を早めることも可能です。
また、本業でボーナスカットやリストラなど想定外の事態が起きても、家賃収入があれば生活を立て直しやすくなります。
会社員は安定した給与所得があることから、金融機関からの信用が高いという一面があります。
不動産を購入する際に多くの人はアパートローンを利用しますが、会社員は金融機関から「返済能力が高い」と判断されやすいため、融資の審査に通りやすい傾向があります(もちろん、ある程度の自己資金を準備しておくことは大前提です)。
賃貸経営は業務の多くを管理会社に委託できるため、本業のある人でも無理なく取り組めるのが魅力です。
管理を委託する場合は家賃収入の5%程度の手数料がかかりますが、本業への影響を最低限に留めた上で安定した収入を目指せるのは大きなメリットといえます。
では、どんな人が大家に向いているのでしょうか?
まずは、細く長く安定した副収入を得たい人です。賃貸経営は、短期間で大きな利益を出すタイプのビジネスではありません。コツコツと資産を育てていく姿勢が大切なので、その点を理解して取り組める人に向いています。
次に、冷静な判断ができる人も大家向きです。入居者や不動産会社、工事関連会社など、さまざまな人とのやり取りがある中で、思い通りにならない場面も出てきます。そんなときでも感情的にならず相手の立場を尊重して対応できる人は、信頼される大家になりやすいでしょう。
さらに、計画的に物事を考えられる人にも向いています。建物は時間とともに老朽化していくため、将来の修繕やリフォームに備えて、家賃収入の一部をきちんと積み立てておくことが必要です。
目先の収入だけにとらわれず、先を見据えて行動できる人は、安定した賃貸経営を続けやすくなります。
「大家さんになりたい」と思ったら、何から始めればよいでしょうか。
大家になるまでの基本的な手順は次の通りです。
1つずつ解説します。
大家を目指す上で最初にやるべきことは、「自分はなぜ大家になりたいのか?」という目的を明確にすることです。
例えば、
など、目的は人によってさまざまです。
この目的が曖昧なままだと、物件選びや資金計画を間違えてしまう可能性が高くなります。
逆に、目的が明確であれば「どのエリアで・どのタイプの物件を・どのくらいの期間で保有するか」といった戦略も立てやすくなります。
まずは、自分自身のライフプランと照らし合わせて「なぜ大家になりたいのか?」を整理しておきましょう。
不動産は人生の中でも特に高額な買い物の1つです。だからこそ、購入前に基本的な知識を得ておくことが納得のいく判断につながります。
例えば以下のような基本知識があると心強いでしょう。
もちろん、最初からすべてを完璧に理解する必要はありません。
書籍や専門サイトを活用したり、わからないことは不動産会社や管理会社に相談したりしながら少しずつ学んでいけば大丈夫です。
ただし、まったく知識のない状態で物件探しを始めてしまうと、「お得だと思った物件が実は割高だった」「営業トークを真に受けてしまった」といったリスクが高くなります。
後悔しないためにも、自分なりの基礎知識を持っておくことが大切です。
次に、資金計画を立てましょう。どんなに魅力的な物件でも、資金が確保できなければ購入には進めません。
融資を利用する場合、物件価格の2〜3割程度の自己資金が必要とされるのが一般的です。自己資金と融資のバランスを考えた現実的な予算を立てましょう。
借入可能額は、会社員であれば年収の10〜20倍が目安ですが、実際の金額は年収・資産状況・物件の担保評価額などによって大きく異なります。
最初は不動産会社に相談し、提携金融機関での融資を受けるのが現実的です。
物件探しについては、以下の視点を意識して比較検討します。
物件を決める前には、収支シミュレーションをしてみましょう。
想定される家賃収入や支出(空室率・管理費・修繕費・税金)といった支出をもとに、何年で投資を回収できるか、想定通りの利回りが確保できるかを試算します。
また、物件を購入する前には必ず現地調査をしてください。建物の状態や周辺の雰囲気を自分の目で確認することで、購入後のトラブルを防げます。
物件を購入したら、次は入居者の募集です。全国的に見ると、すべてを自主管理している大家さんは約2割であり、多くの大家さんが不動産会社に管理を委託しています。(※)
入居者募集だけを不動産会社に依頼することもできますが、不動産会社としては管理委託契約を結んでいる大家さんの物件を優先せざるを得ません。
そのため、入居希望者を案内してもらえる機会が少なくなり、空室が長引く可能性があることには注意が必要です。
また、募集前には、家賃や敷金・礼金・共益費に加え、ペット飼育や楽器の使用、ベランダの利用ルール(布団干しの可否など)も決めておきましょう。事前の取り決めが後々のトラブル防止につながります。
条件が整ったら、不動産会社を通じて募集を開始。入居審査に問題がなければ、契約に進みます。
なお、初めのうちは条件設定や入居者の見極めが難しいもの。経験豊富な不動産会社と相談しながら進めるのがおすすめです。
(※)参考:国土交通省|賃貸住宅管理業務に関するアンケート調査
賃貸経営は20年、30年と長期間にわたるため、先々のことも考えておく必要があります。
以下のような点について、早めに家族と共有しておきましょう。
・ 誰が相続するか
土地や建物といった不動産だけでなく、賃貸経営という事業も引き継ぐことになります。
そのため、相続人(例えばお子さん)はアパートを引き継ぐ意思があるのかどうか、あらかじめ確認しておく必要があります。
・ 今後の方針
相続人が賃貸経営を続けるのか、それとも売却するのかを検討できるように、ローン残高や建物の状態、収支のバランスといった情報を伝えましょう。
・スムーズに引き継ぐための準備
相続人が困らないように、管理に必要な情報を整理して共有しておきましょう。
「大家になるには、何か資格が必要なのだろうか?」と思う人もいるかもしれません。
結論を言うと、大家業に資格や免許は不要です。とはいえ、長期的に安定した経営を目指すなら、基礎知識として関連資格を学んでおくのがおすすめです。
ここでは、大家業に役立つ代表的な資格を紹介します。
・賃貸不動産経営管理士
賃貸経営について、物件管理やトラブル対応、契約実務など幅広い知識を学べる国家資格です。自主管理を検討している人や、実務の理解を深めたい人におすすめします。
・宅地建物取引士
不動産取引に欠かせない、法律や契約に関する知識が身につく国家資格です。
物件購入時はもちろん、不動産会社との交渉や契約内容の理解にも大いに役立ちます。
・ファイナンシャルプランナー
資産運用・税金・保険・相続・年金など、暮らしに関わるお金の知識全般が身につく国家資格です。将来の相続対策にも強くなれます。
・日商簿記3級
帳簿のつけ方や経理の基礎を学べる公的資格です。確定申告や青色申告を自分で行う際に役立ちます。
「大家に興味はあるけれど、本当に儲かるのか?」と不安な人もいるかもしれません。
ここでは、実際のデータをもとに大家さんの収入を確認しながら、大家業のメリットや注意点についても詳しく解説します。
大家になったら実際どれくらい稼げるのか、データを見てみましょう。
国税庁の「申告所得税標本調査」によると、令和5年(2023年)の不動産所得の平均は547万円です。前年の543万円から微増しています。過去の数字を見ても、平成28年の約512万円から安定して右肩上がりです。
ちなみに「所得」とは、収入から必要経費を差し引いた金額、つまり「儲け」のことです。
給与収入に加えて500万円前後の利益が得られると考えると、なかなか良い選択肢といえるのではないでしょうか。
年代 | 所得金額 |
平成28年 | 512万円 |
平成29年 | 517万円 |
平成30年 | 518万円 |
令和元年 | 521万円 |
令和2年 | 540万円 |
令和3年 | 543万円 |
令和4年 | 543万円 |
令和5年 | 547万円 |
国税庁|申告所得税標本調査結果を元に作成
大家業には、次のようなメリットがあります。
1.定年後の安定収入になる
年金に家賃収入が加わることで、老後の生活にゆとりが生まれます。
複数の部屋が一度に空室になる可能性は低いため、安定した収入源として期待できるでしょう。
2.万一のときに家族に遺せる
ローンで物件を購入すると、多くの場合「団体信用生命保険(団信)」に加入します。
自身に万が一のことがあっても、残りのローンは完済されて物件は家族に遺せます。
3.固定資産税の負担が軽くなる
土地を所有している場合は、賃貸アパートを建てることで「住宅用地の特例」が適用され、固定資産税が軽減されます。
4.相続税の節税対策になる
不動産の評価額は実際の市場価格よりも低く計算されるため、現金での相続よりも相続税を抑えることが可能です。
大家業には多くのメリットがありますが、注意すべき点も存在します。
ここでは、代表的な3つのリスクとその対策を紹介します。
1.空室が増えて収入が減る可能性がある
アパート経営を始める上で多くの人が不安に感じるのが、「入居者が集まらなかったらどうしよう」という点です。事実、築年数が経過すると新築物件との競争が激しくなり、空室リスクが高まると考えられます。
このリスクを下げるためには、定期的なリフォームや設備の更新などで物件の魅力を保つことが大切です。
また、空室対策に強く営業力のある不動産管理会社に委託するのも有効な手段です。
2.管理や入居者対応に疲れてしまうことも
設備の故障や入居者からのクレーム対応など、管理業務には手間がかかります。対応を誤るとトラブルに発展することもあり、精神的な負担になるケースもあります。
こうした負担を軽減するには、賃貸管理を専門の管理会社に任せるのが有効です。
警備会社と連携して24時間対応の管理体制を整えている会社であれば、緊急対応が必要なときも迅速に対応してもらえます。
3.建物の老朽化により修繕費がかさむ
築年数の経過とともに、外壁や屋根の防水工事などの大規模修繕が必要になります。
費用を確保できないと必要な修繕ができず、老朽化が進行してしまいます。
こうしたピンチを防ぐためには、経営開始時から計画的に費用を積み立てることが重要です。
物件購入時に不動産管理会社と一緒に長期修繕計画を作成することで、「いつ」「いくら」費用がかかるのかの見通しを立てられます。
このように、大家業には一定のリスクがあるものの、多くは事前の備えと信頼できる不動産管理会社選びでカバーできます。
最後に、大家さんになるために必要なものについて、解説していきます。
大家として賃貸経営を始めるには、自己資金の準備が不可欠です。
金融機関から融資を受ける場合も、一般的に物件価格の10〜20%程度の自己資金が求められます。
例えば2,000万円の物件であれば、200〜400万円程度が目安です。
自己資金が多いほど借入額を抑えられるほか、金融機関からの信頼を得やすくなり融資条件が有利になる可能性もあります。
また、購入時の仲介手数料といった初期費用は、現金で用意する必要があります。こちらは、物件価格の約5〜10%を見込んでおきましょう。
さらに、ローン返済開始直後に空室が出た場合に備え、運転資金として50万〜100万円程度を別に確保しておくと安心です。
安定した賃貸経営のためには、立地が非常に重要です。
立地条件が今一つだと、いくら建物が立派でも入居者が集まらず、空室リスクが高まってしまいます。
立地を選ぶ際には、以下のポイントを意識しましょう。
・駅からの距離
徒歩10分圏内が理想。通勤・通学の利便性は、入居者にとって最重要ポイントです。
・周辺環境
スーパー・コンビニ・飲食店・病院など、日常生活に便利な施設が近くにあるか。
・治安や街の雰囲気
ファミリー層を想定するなら、治安の良さや街灯の多さもチェックが必要です。
・将来性
都市開発や再開発の予定があるエリアなら、資産価値の上昇も見込めます。反対に、人口減少が予測されるエリアは注意が必要です。
大家になるということは、単に「アパートを所有する人」ではなく、「不動産経営者」になるということです。
物件に関する最終的な判断をする立場になることから、経営者としての覚悟が必要になります。
とはいえ、実際の管理業務は不動産管理会社に任せられるため、心配しすぎる必要はありません。
まずは、アパート経営を始める前に、自分がどこまで管理業務に関わるか、どの範囲を外注するかといった運営方針を考えておきましょう。
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