賃貸管理コラム
被相続人の遺産には、預貯金や現金のような金融資産、自宅や土地のような不動産のみならず、アパートのような賃貸物件も含まれているかもしれません。
亡くなった親がアパート経営をしていても、相続する配偶者や子どもはその経験や知識がまったくないケースも多いでしょう。そのため、所有していてもしかたがないと、相続放棄を検討する人がいるようです。
しかし、中には相続したほうが相続人にとってメリットが大きいケースもあります。
本記事では、アパートを相続したくない場合に相続放棄が有効な対処法なのかを詳しく解説します。また、相続放棄の具体的な方法も併せて紹介します。
アパートのような賃貸物件を相続するメリットと注意点を解説します。
被相続人が所有していたアパートを相続すると、相続人は賃料の収入が期待できるだけでなく、節税対策としても有効です。
入居者がいる以上、貸している土地や建物の自由な使用はできません。その分、貸している割合により税金が軽減されます。アパートの全部屋に入居者がいるケースなら、賃貸割合は100%です。
これと同様の優遇措置が、相続人が遺産を相続するときに納める相続税についても適用されます。
アパートの建っている土地は「貸家建付地」と呼ばれ、相続税評価額は以下の計算式で求められます。
貸家建付地の相続税評価額=土地の評価額 × (1-借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
上記の式から、空室が少ないアパートほど相続税が軽減されることがわかります。
なお、正確な借地権割合は国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。
貸家建付地の相続税評価額が、具体的にどれくらい低くなるか、計算をしてみましょう。一部を自宅として使用していたアパートを相続したとします。
本来の土地の評価額が2億円だった場合、次のような計算となります。
相続税評価額=2億円 × (1-借地権割合0.6 × 借家権割合0.3 × 賃貸割合0.8)= 1億7,120万円
貸家建付地は2,880万円も評価額が低くなり、その分相続税も軽減されます。
アパートは不動産のため、現金のように複数の相続人で分割するのが難しいです。
アパートは、複数の相続人の共有名義にして引き継ぐことも可能です。この方法なら、各相続人の相続割合に応じた持ち分でアパートを共同所有できます。
しかし、共有者全員の同意がないと、アパートの売却や3年を超える賃貸はできません。各相続人が単独で決められない行為が多いため注意が必要です。
共同名義での相続を避けたいなら、相続人同士で話し合って次の方法を検討してみましょう。
アパートのようなプラスの不動産があっても、被相続人に、ローンや未払い金など多額の債務があるケースも想定されます。プラスの財産を大幅に上回る債務が発覚した場合、無理に相続をする必要はありません。
ここでは相続放棄とはどんな方法か、相続放棄をする際の注意点について解説します。
相続放棄は、相続が開始された際、遺産のすべてを引き継がない代わりに、被相続人の債務を負わない方法です。
相続放棄を希望する場合、相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に家庭裁判所へ申し立てます。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。(以下省略)e-Gov法令検索「民法」
たとえ相続放棄をしたとしても、入居者がアパートをすぐに退出する必要はありません。相続放棄をした本人以外に法定相続人がいれば、その人がアパートの所有を引き継ぎます。
一方、法定相続人全員が相続放棄した場合、相続放棄後も管理義務は残ります。管理義務を免れたいなら、家庭裁判所に相続財産管理人の選定を申し立て、債務整理などを行ってもらうことになります。
なお、次のような事実があれば単純承認に該当し、相続放棄が認められません。
相続放棄は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。申立から相続放棄が受理されるまで、約2カ月かかります。
申立の際は、主に以下の書類が必要です。
書類 | 取得場所 |
---|---|
相続放棄申述書 | 家庭裁判所の窓口など |
被相続人の住民票除票または戸籍附票 | 住民票除票は市区町村窓口、戸籍附票は本籍地の市区町村窓口 |
出生から死亡までの戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍謄本) | 被相続人の本籍地の市区町村窓口 |
申立人の戸籍謄本 | 申立人の本籍地の市区町村窓口 |
プラスの財産よりも債務が多いからといって、すぐに相続放棄を選択するのは避けたほうがよいでしょう。
アパートのローンが残っていると、債務のほうがプラスの財産より多い場合は相続放棄をしたくなるはずです。
しかし、比較的新しいアパートや古くとも立地のよいアパートであれば、人気は高く安定した収入が期待できます。
また、被相続人がローンを組んだとき団体信用保険に加入していれば、その保険からローンの完済ができます。ローンを組んだ金融機関に保険加入の有無を問い合わせしましょう。
これらの確認を十分に行わないと、安定した収入の機会を失うおそれがあります。
相続放棄をしたい人が被相続人の所有アパートの連帯保証人になっている場合、相続放棄が認められてもローンを返済しなくてはなりません。
相続放棄をすると、自己の収入からローンを返済する必要があります。連帯保証人である限りは、安易に相続放棄はせずアパートを引き継いだほうがよいでしょう。家賃収入のほか、アパートを売却しそのお金でローン返済や自己の利益にすることも可能です。
アパートを相続するか相続しないかを悩む方向けに、さまざまなケースを想定した判断基準を紹介します。
被相続人が亡くなったら、財産調査を行いプラスの財産や借金などの債務がどのくらいあるかを確認します。債務がプラスの財産を大幅に上回るならば、相続放棄はやむをえない方法といえます。
ただし以下のようなケースは、相続したほうがよいでしょう。
アパートの老朽化が進んでいると、以下のような状況になるおそれがあります。
このようなケースでは、相続放棄もひとつの手段です。
しかし、立地に恵まれており、費用はかかるもののリフォームすれば安定した収入が見込めるケースもあります。この場合、アパートを引き継いだほうが長期的にみて相続人の利益となるでしょう。
アパートの相続では、経営のノウハウや契約手続きなどもよくわからないまま、引き継ぐケースが想定されます。
引き継いで損をするリスクや管理に手間がかかるのが嫌で、相続したくないと考える方は多いはずです。
そんなときは「サブリース」を利用しましょう。サブリースとは、サブリース会社に長期間アパートをまるごと貸し出し、利益を得る方法です。
サブリース会社は入居者探しから入居者との契約、建物の管理もすべて行ってくれます。
オーナーにとっては経営の知識や管理の手間がかからず、安定した収入を得られます。収入は一般的な賃貸管理の満室時の約80~90%ですが、空室があってもサブリース会社から安定した収入を受け取れるメリットがあります。
サブリースを活用すれば、アパート経営の経験がない人が相続しても、十分資産として所有し続ける価値があるでしょう。
いろいろと悩む前に、サブリース会社へアパートの維持や経営に関する相談をしてみましょう。
ピックアップコラム