賃貸管理コラム
アパート経営を考えている人ならば、一度はサブリース契約について耳にしたことがあるでしょう。
サブリースは、空室リスクや管理業務の手間から解放されるという大きなメリットがある運営方式です。しかし、最近では「かぼちゃの馬車事件」や「レオパレス21のオーナー集団訴訟」など、様々なトラブルが報じられています。
本記事ではサブリースによる代表的なトラブル事例と、トラブルを避けるための法整備について解説します。また、トラブルを回避しながらサブリースを利用するポイントも併せて確認してみましょう。
サブリースでよくあるトラブル事例を5つ紹介します。
サブリース契約では、契約を結んだ当初は見込み通りの家賃収入が入ってきます。しかし、建物や設備の経年劣化などにより、サブリース会社より一定期間ごとに保証賃料の見直しを要求されることがあります。
サブリース会社と結ぶほとんどの契約書は、賃料減額請求権について記載されているはずです。賃料減額請求とは、サブリース会社側からオーナーに支払う賃料の減額を求める権利のことです。
オーナーは原則として、請求があると応じなければなりません。
根拠となっているのが、2003年10月21日最高裁第3小法廷において示された、「サブリース契約は借地借家法が適用される賃貸借契約である」という考えによるものです。
サブリース会社とオーナーの間に結ばれる契約(特定賃貸借契約)は、借地借家法32条によって、会社側の賃料増減額請求権が認められる、という判例になりました。
借地借家法第三十二条(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
なお、仮にサブリース会社がオーナーに対して賃料を減額請求できない旨が契約書に記載されていたとしても、借地借家法が優先されるため、その条項は無効となります。
マスターリース契約とは、オーナーとサブリース会社間による賃貸借契約のことです。
マスターリース契約をオーナー側から解除するには、サブリース会社による賃料不払いなどの契約違反などがない場合、正当事由が必要です。
正当事由とは、賃貸借契約を終了させても仕方がない、という理由です。建物の老朽化による耐震力の不足や、自身がその土地を建て替えて使いたい、などいずれにせよ条件は厳しいです。
契約締結時に解除の条件などを明らかにしないことにより、解除ができないなどのトラブルが発生しています。
建物の価値を保つためには、定期的な大規模修繕が必要です。建物の修繕を行われないと、見た目だけではなく、雨漏りやシロアリ被害などが発生して、建物の価値が大きく下がってしまうことがあります。
この建物の大規模修繕にかかる費用や賃借人退去後の原状回復費は原則、オーナーが負担します。
大規模修繕を行う際の工事について、サブリース会社ともめることがあります。
たとえば、以下のようなケースが考えられます。
こういった事態を防ぐためには、信頼のできるサブリース会社と契約するということが大前提です。さらに、提示された見積書の明細を見て、施工単価や施工範囲が広すぎないかなど、よく確認をしましょう。
また、工事期間中も現場に足を運んで、職人の出入りがあるかなどのチェックが必要です。仕上がり具合の確認を含め、施工後は現地を見に行きましょう。
サブリース会社が経営破たんをすると、当然のことながら家賃保証の支払いが止まります。
この場合、サブリース会社の契約不履行を理由に、オーナー側から一方的な通知で契約の解除ができます。
契約を解除すると一括借り上げ賃料や保証家賃は実質的に消滅します。
また、サブリースでは、オーナーとサブリース会社の間で、建物賃貸借契約に基づいて建物を入居者に転貸しています。そのため、オーナーとサブリース会社との間の契約が解除されることにより、サブリース会社と入居者の間の契約も解除され、入居者は建物から退去する必要があります。
しかし、ほとんどのオーナーは現入居者に住み続けてもらい、引き続き家賃収入を得たいと考えます。
その際オーナーは、自分が賃貸人の地位を引き継いで入居者と直接契約をします。しかし、サブリース会社が倒産したような場合は、混乱が生じて入居者との直接契約がスムーズに進まないことも少なくありません。
サブリース会社は、資本金額や金融機関への借入額、保有資産など、大切な資産を長年に渡り管理する会社です。破たんをするようなサブリース会社を選ばないためにも、あらかじめ会社の財務状況に注意が必要です。
免責期間とは、サブリース会社の家賃保証が免責される期間です。その間、オーナーは家賃保証を得られません。
免責期間は、新築時や入居者の退去時に設けることがあります。この期間が、必要な期間よりも、長く設定されているケースがあります。
サブリースに関するトラブルが増えたことを背景に、国土交通省は2020年12月より「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」を施行しました。通称サブリース新法と呼ばれており、サブリース契約におけるトラブルを未然に防ぐ目的があります。
参照:国土交通省「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」
新法では、サブリース契約についてオーナーへ正確な情報を提供し、リスクを理解して契約を締結することを求められています。
サブリース新法の主なポイントは、以下の3つです。
これまでサブリースのオーナーを募集する広告では、以下のように、契約した時点と同じ条件がずっと続くと誤認させるような広告が数多くありました。
サブリース新法では「家賃保証」や「空室保証」などの文言を広告に掲載する場合は、隣接部分に「定期的な家賃見直しあり」や「家賃減額あり」など、オーナーにリスクを認識させる表示をすることを義務付けました。
契約や解除の判断に影響を及ぼす重要な事項に関して、サブリース会社がサブリース契約を検討しているオーナーに対して、以下を行うことを禁止しています。
さらに、営業マンによる長時間にわたる勧誘や、契約を断っているにも関わらず無理に勧誘することなど、迷惑行為も禁止されています。
サブリース契約を行う場合は、その内容について書面などを交付して説明しなければならないと定めています。サブリース会社は通常の不動産取引と同様に、以下を賃貸借契約締結前にオーナーへ説明する義務があります。
契約内容の誤認やトラブルを未然に防ぐ目的があります。
これまでトラブルが多発していたサブリース契約ですが、オーナー保護の観点から新法が施行されました。サブリース会社が違反した場合、業務停止などの処分や罰則が行政により行われます。悪質なケースには刑事罰をくだされるおそれもあります。
さらに、2021年6月より賃貸住宅管理業者に対する規制が施行され、200戸以上の物件を管理する賃貸住宅管理業者の登録が必須となりました。
サブリース会社も賃貸住宅管理業者に含まれるので、この規制が適用されます。
こういった法整備が進んだため、オーナーにとっても契約を締結する際の誤認や、情報不足による判断ミスが少なくなりつつあります。
サブリースはトラブルが多かったものの、サブリース新法によって、オーナーが安全に利用できるハードルが低くなってきていると考えられます。
ここで紹介する注意点を押さえておけば、よりうまく活用できるでしょう。
サブリース契約は賃貸オーナーにとって、空室リスクを軽減し、安定した家賃収入を得るための有効な選択肢のひとつです。
しかし、通常の賃貸借契約に比べ複雑な方式で、契約期間が長期に渡るため、さまざまなリスクを考慮する必要があります。
オーナー自身が情報収集をしておき、どういったリスクがあるのか知っておくことにより、対処できることがほとんどです。
まずは、人任せにせず自身で継続的な情報収集を心がけましょう。
実際の賃借人からの家賃徴収や、入居者募集などの管理・募集業務はサブリース会社が行います。そのため、サブリース方式では、サブリース会社が長い時間をともにするビジネスパートナーです。
信頼できるサブリース会社の担当者を判断する基準としては、以下の点が挙げられます。
誠実で健全なビジネスパートナーに出会うため、まずは相談をしてみることから始めましょう。
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