賃貸管理コラム

戸建賃貸の修繕費はどれくらいかかる?大家の責任範囲やトラブル事例も紹介

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戸建賃貸の経営では、将来の修繕費などのランニングコストがどの程度必要かを正確に把握することが重要です。

初期費用や火災保険、固定資産税などは明確に把握できますが、建物の修繕にかかる費用はその建物の築年数や劣化具合によって異なるため、明確に把握することが難しい実態があります。

また、国土交通省大臣官房官庁営繕部が監修の「建築物のライフサイクルコスト」では、建物にかかる費用は建設費だけではなく、修繕費用や大規模な改修費用などの建物を維持するための費用が必要で、ライフサイクルコストは建設費の何倍にもなるといわれています。

戸建賃貸で必要な修繕

戸建賃貸では、屋根や外壁などの外装材の修繕、クロスやフローリングなどの内装材の修繕、トイレやお風呂、キッチンなどの設備機器類の修繕が必要です。

修繕が必要となるタイミングについては、入居者の退去時や入居中、建物が老朽化したときなどがあります。

入居者の退去時に必要な修繕

入居者の退去時、建物の劣化具合によっては修繕が必要ですが、入居者は入居した状況に戻すことが民法上「原状回復義務」として定められています。

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索「民法」第六百二十一条

ただし、経年劣化による修繕については大家が負担する必要があります。入居者の原状回復義務の適用範囲であるかどうかは、個別判断により決定されます。

国土交通省では、退去時の原状回復におけるトラブルを防ぐために、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を発表しています。

それによると、日射などの自然現象によるクロスの変色は大家負担の経年劣化に含まれ、喫煙などのヤニによるクロスの変色は入居者の原状回復義務に含まれるとあります。また、畳の裏返し、表替え、フローリングのワックスがけは、大家負担の修繕に含まれますが、入居者が飲み物をこぼしたことによるシミやカビの修繕については、入居者の原状回復義務に含まれます。

大家負担 入居者の原状回復義務
  • 日射などの自然現象によるクロスの変色
  • 畳の裏返し、表替え、フローリングのワックスがけ
  • 喫煙などのヤニによるクロスの変色
  • 入居者が飲み物をこぼしたことによるシミやカビ

つまり、入居者の故意や過失などによる損耗は、入居者に原状回復義務があります。一方、経年劣化による損傷や自然現象による経年劣化は、大家負担で修繕が必要です。入居者に原状回復義務がある損耗でも、設備や内装材等の個別に設定されている耐用年数を超過しているものについては、入居者の負担割合が小さくなる場合もあります。

入居中に発生した不具合の修繕

入居中に発生した不具合も、入居者の故意や過失などが原因の場合は入居者負担で修繕をします。

また、電球やガスコンロ、リモコンの電池などの消耗品類は、長期に使用する中で必ず交換の時期がくるものとして、入居者が負担します。

ただし、以下のように、自然現象や入居者の自然使用による経年劣化で発生する不具合は大家負担の修繕の範囲に含まれます。

  • 台風などでガラスが割れるなどの損傷
  • 水道蛇口やコンロなどの設備類の寿命による使用不全

建物の老朽化による修繕

マンションやアパートなどの共同住宅は、鉄筋コンクリート造の建物も多いですが、戸建賃貸は木造のものが多くを占めます。

それは、木造のほうが鉄筋コンクリート造より、初期費用が圧倒的に安くなるためです。

耐久性の観点では、木造より鉄筋コンクリート造のほうが性能が優れており、より長持ちする傾向があります。そのため、木造の戸建を長持ちさせるには、建物の構造体を守る屋根や外壁を老朽化から守ることが重要です。

木造戸建の屋根の耐久性は使用する材料などによって異なりますが、最も多く採用されているスレート瓦や金属葺きは、約10〜15年で塗装や葺き替えの修繕が必要です。

また、窯業系サイディングや金属サイディングなど、一般的に使用されている外壁材は、いずれも約10〜15年で塗装修繕が必要です。

戸建賃貸の修繕費の目安

電卓と戸建て住宅

建物の経年劣化に伴う修繕は、建物を長持ちさせて経営を安定させるために必要不可欠です。

マンションやアパートのような共用部はありませんが、建物の寿命を左右する屋根や外壁の外装材の修繕が重要です。また、クロスやフローリングなどの内装材や、トイレやお風呂などの設備類もメンテナンスを行います。

戸建賃貸の修繕費の目安を部位別に紹介します。

屋根や外壁などの外装材の修繕費

屋根や外壁などの外装材は、建物の寿命に関わる重要な部分です。

屋根や外壁の修繕費は種類によって金額や修繕時期が異なりますが、それぞれのライフスタイルコストの目安を、建物寿命を60年として算出します。

屋根のライフサイクルコストの目安
種類・商品名など 修繕時期 修繕費1回分(円) 60年のライフサイクルコスト(円)
燻瓦、釉薬瓦など メンテナンスフリー 0 0
スレート板 コロニアル、カラーベストなど 約10年 100万~200万 500万~1,000万
金属葺き(ガルバリウム鋼板) スーパーガルテクト、ラジアールーフなど 約15年 100万~200万 300万~600万
金属葺き(ステンレス) 同上 メンテナンスフリー 0 0

※海辺や都市などの周辺環境や、使用状況によって異なります

外壁のライフサイクルコストの目安
種類・商品名など 修繕時期 修繕費1回分(円) 60年のライフサイクルコスト(円)
サイディング(窯業系) モエンサイディングなど 約15年 100万~200万 300万~600万
サイディング(金属系) 角波ガルバリウム鋼板など 約15年 100万~200万 300万~600万
モルタル系吹付 ジョリパットなど 約15年 100万~200万 300万~600万
タイル(乾式工法) 磁器質タイルなど メンテナンスフリー 0 0
タイル(湿式工法) 同上 10年
(打診検査費)
20万~50万 100万~250万

※日当たりや雨がかりなどの建物形状などによって異なります

クロスやフローリングなどの内装材の修繕費

クロスやフローリング、畳などの内装材の修繕費は、外装材の修繕費より比較的安価です。使用頻度や日の当たり方などの状況によって変わりますが、大まかなライフサイクルコストを算出します。

内装材のライフサイクルコストの目安
修繕時期 修繕費1回分(円) 60年のライフサイクルコスト(円)
天井クロス メンテナンスフリー 0 0
壁クロス 状況に応じて 20万~50万 100万~250万
壁板張り メンテナンスフリー 0 0
壁タイル張り メンテナンスフリー 0 0
土間床 メンテナンスフリー 0 0
床タイル メンテナンスフリー 0 0
床フローリング 毎年ワックスがけ 2万~5万 120万~300万
床カーペット 約10年で張替 5万~10万 25万~50万
床畳 約20年で張替 5万~10万 10万~20万
  • ※壁クロスは15年ごとに張り替えたとして計算
  • ※床フローリングワックスがけは、業者依頼の場合を想定

なお、天井クロスは通常使用では壁クロスと比較して劣化の進行が遅い傾向にありますが、美観のために改修するケースもあります。

トイレやお風呂などの設備機器に関する修繕費

トイレやお風呂、キッチン、洗面などの設備機器類は、使用頻度や使用状況によって変わりますが、一般的には15年サイクルの交換をメーカーが推奨しています。

ただし、設備機器類については使用不全になるまでは使い続けることも可能なため、30年でも50年でも交換せずに使用できる場合もあります。

設備機器類のライフサイクルコストの目安
設備機器類 修繕時期 修繕費1回分(円) 60年のライフサイクルコスト(円)
トイレ 15年~ 15万~40万 45万~120万
キッチン 15年~ 50万~200万 150万~200万
ユニットバス 15年~ 50万~200万 150万~200万
洗面台 15年~ 5万~20万 15万~60万
給湯機 15年~ 10万~60万 30万~180万
エアコン 10年~ 5万~50万 25万~250万
換気扇 10年~ 2万~5万 10万~25万

※エアコン・換気扇は10年ごとに、それ以外は15年ごとに交換したとして計算

戸建賃貸の修繕費に関するトラブルに注意

戸建賃貸の修繕費をどこまで大家が負担するかは明確ではなく、民法や契約事項にも規定されていないケースもあります。そのため、国土交通省はガイドラインを作成していますが、トラブルが絶えない実態があります。

どこまでが大家の責任?

戸建賃貸において、トラブルが発生した場合にどこまで大家の責任となるかは、民法で以下のように定められています。

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

引用:e-Gov法令検索「民法」第六百六条一項

たとえば、戸建賃貸で屋根の劣化により雨漏りのトラブルが発生した場合、入居者は通常入居することが困難となり、使用収益が達成できないと判断できます。そのため、大家は屋根の修繕をする義務を負います。設備配管が劣化し漏水した場合も同様です。

逆に、クロスの剥がれなど、通常入居できるような損傷であれば、大家に修繕の義務はありません。

よくあるトラブル例

典型的なトラブル例としては、築年数の古い戸建に入居後、すぐにフローリングやクロスの剥がれが生じるケースです。この場合、経年劣化に気づかず入居したとも考えられますが、入居者の使用状況が悪かった可能性もあります。

原則、通常使用による経年劣化は大家の責任範囲に含まれますが、このように判断が難しいケースでは、大家と入居者との間でトラブルに発展するおそれがあります。

また、設備機器類の故障によるトラブルも多発しています。設備機器類の故障については、入居者の使用状況が悪ければ入居者負担となり、経年劣化によるものは大家の責任範囲です。

たとえば、食洗器や浄水器を入居者があと付けした水道蛇口が壊れた場合を考えてみましょう。入居者による設置が原因で水道蛇口が壊れた可能性もあり、経年劣化によるものでないかもしれません。

このように、大家か入居者、どちらの責任範囲に含まれるかはグレーな部分が多くあります。国土交通省のガイドラインでは、入居前に入念な状況確認をすれば、このようなトラブルがあった場合もスムーズな対応ができるとされています。

戸建賃貸経営はサブリースがおすすめ

国土交通省のガイドラインなどで、修繕にかかるトラブル発生時の対応方法などは記載されていますが、法的な制約ではありません。トラブルに発展した場合は、大家と入居者との協議で解決する必要があります。

また、建物の修繕には、定期的なものだけではなく、想定外の損傷が発生した場合のものもあり、大家は随時対応する必要があります。

戸建賃貸経営にかかるトラブルや、建物修繕の管理は専門的な知識が必要です。おすすめは、大家の管理業務を専門家に任せるサブリース方式での経営です。

サブリース会社が大家の代わりに運営するため、戸建賃貸でよくある修繕のトラブル対応を任せられます。さらに、一般的な管理委託と異なり、空室があった場合でも毎月安定した収入が得られます。

戸建賃貸はアパートやマンションと異なり一世帯のみが入居するため、より空室対策が重要です。

満室時を想定した家賃の約1〜2割の手数料が必要ですが、安定的な経営とトラブルなどの対応の手間が一切心配いらないというメリットは大きいでしょう。


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